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田中研究室

田中 嘉成
教授 農学博士

研究室:
〒102-8554 東京都千代田区紀尾井町7-1
上智大学
2号館15階1517号室
TEL:
03-3238-4364
E-mail:

研究

研究分野

おもな研究テーマは、生態学とくに生物の環境への適応を研究する進化生態学や量的遺伝学と言われる分野です。環境問題と関係する領域では、化学物質などによる環境汚染が生態系や生物多様性に与える影響を生態学の考え方や理論に基づいて評価する研究を行ってきました。また、温暖化や水質汚濁などの影響が湖の生態系に与える影響も解析しています。

個別の研究テーマ

  1. (より詳細な解説は、各テーマをクリックしてください。)
  2. (1)化学物質の生態リスク
  3. (2)生物群集における種の形質に基づく生態影響評価
  4. (3)遺伝的要因による個体群の絶滅過程
  5. (4)生物の個体変異と進化
  6. (5)生物の社会進化理論

主要論文

  1. Tanaka, Y. and Tada, M. 2016. Generalized concentration addition approach for predicting mixture toxicity. Environmental Toxicology and Chemistry 36(1): 265-275. [pdf]
  2. Mano, H. and Tanaka, Y. 2015. Mechanisms of compensatory dynamics in zooplankton and maintenance of food chain efficiency under toxicant stress. Ecotoxicology 25(2): 399-411.
  3. Tanaka, Y. and Tatsuta, H. 2013. Retrospective estimation of population-level effect of pollutants based on local adaptation and fitness cost of tolerance. Ecotoxicology 22: 795-802. [pdf]
  4. Tanaka, Y., Mano, H. and Tatsuta, H. 2012. A toxicant threshold model and the genetic variance of tolerance to pollutants. Environmental Toxicology and Chemistry 31: 813-818. [pdf]
  5. Tanaka, Y. 2012. Trait response in communities to environmental change: Effect of interspecific competition and trait covariance structure. Theoretical Ecology 5: 83-98. [pdf]
  6. Tanaka, Y. 2010. Recombination and epistasis facilitate introgressive hybridization across reproductively isolated populations: a gamete-based simulation. Evolutionary Ecology Research 12: 523-544. [pdf]
  7. Tanaka, Y. and Yoshino, M. 2009. Predicting the phenotypic response of resource-competing communities to environmental change. Journal of theoretical Biology 257: 627-641.
  8. Tanaka, Y. 2007. Introgressive hybridization as breakdown of postzygotic isolation: A theoretical perspective. Ecological Research 22: 929-939.
  9. Tanaka, Y. 2003. Ecological risk assessment of pollutant chemicals: extinction risk based on population-level effects. Chemosphere 53: 421-425. [pdf]
  10. Tanaka, Y. and Nakanishi, J. 2001. Model selection and parameterization of the concentration-response functions for population-level effects. Environmental Toxicology and Chemistry 20: 1857-1865. [pdf]
  11. Tanaka, Y. and Nakanishi, J. 2000. Mean extinction time of populations under toxicant stress and ecological risk assessment. Environmental Toxicology and Chemistry 19: 2856-2862. [pdf]
  12. Tanaka, Y. 2000. A realized heritability of behavioral responsiveness to oviposition deterring pheromone in azuki bean weevil. Entomologia Experimentalis et Applicata 96: 239-243.
  13. Tanaka, Y. 2000. Extinction of populations by inbreeding depression under stochastic environments. Population Ecology 42: 55-62.
  14. Tanaka, Y. 1998. Theoretical aspects of extinction by inbreeding depression. Researches on Population Ecology 40: 279-286.
  15. Tanaka, Y. 1996. The genetic variance maintained by pleiotropic mutation. Theoretical Population Biology 49: 211-231.
  16. Tanaka, Y. 1996. Social selection and the evolution of animal signals. Evolution 50: 512-523.
  17. Tanaka, Y. 1996. A quantitative genetic model of group selection. American Naturalist 148: 660-683.
  18. Tanaka, Y. 1993. A genetic mechanism for the evolution of senescence in Callosobruchus chinensis (the azuki bean weevil). Heredity 70: 318-321.
  19. Heritability estimates of life history traits in small white butterfly Pieris rapae crucivora. Researches on Population Ecology 33: 323-329.
  20. Tanaka, Y. 1991. The evolution of social communication systems in a subdivided population. Journal of Theoretical Biology 149: 145-163.

(1)化学物質の生態リスク

シャンプーや台所洗剤、液晶パネル材料、プリンター用インク、化学繊維、ガソリン添加剤など私たちの生活は数え切れないほどの化学物質に支えられています。しかし、化学物質の中には環境や人の健康に有害な影響を及ぼすものがあり、持続可能な発展を維持するためには、そのような化学物質の環境リスクを適切に評価し管理していくことが必要です。

特に日本では1960年代に水俣病で象徴される化学汚染による公害病が各地に発生し、それを機に化学物質の健康影響を評価する科学が進歩しました。その一方、化学物質の生物多様性や生態系への影響を評価する研究は立ち遅れてしまいました。私は、種や個体群が絶滅するリスクを基準にして環境汚染の生態リスクを推定する方法を提案し、この分野に生態学の考え方を取り入れることを試みました(主要論文[2, 9, 10, 11])。生態リスクを個体群の絶滅確率で評価する手法は、生物多様性のリスクを研究する保全生態学において存続可能性分析として発展してきた方法と共通のものです。

さらに、生態系全体の構造を考慮に入れた評価方法の研究にも取り組んでいます。実際の生態系では、種と種は食うものと食われるものの関係などによって互いに結び付きを持ちながら生活しています。このような種間相互作用の重要性を化学物質の生態リスク評価に反映させるために、藻類(植物プランクトン)・ミジンコ類(動物プランクトン)・魚類を基本とする3栄養段階の生態リスクモデルを作成し、既存の評価手法との比較を試みています(http://www.nies.go.jp/ateram/index.html)。

生物を無生物から隔てる最も大きな特徴は、環境に応じて進化していくということです。化学物質で汚染された環境においても、生物は化学物質に対して耐性を進化させ生存する確率を上げようとする傾向があります。つまり、汚い環境に長く生息していた集団は、汚れていない環境に生息していた集団より汚濁に強い性質が獲得されるのです。この性質を利用すれば、環境からサンプリングして取ってきた生物の耐性を測定すれば、環境がどれくらい特定の化学物質に汚染されてきたかを推定できることになります。ただ、そのためには、実際に個体群がどれくらいの適応的な遺伝変異を保有しているか、耐性の遺伝的特性は汚染がない条件ではどの程度のデメリット(適応度コスト)を生物に与えるかを推定する必要があります。共同研究者と私は、ミジンコの1種であるカブトミジンコ(Daphnia galeata)をモデル生物にし、霞ヶ浦周辺のいくつかの水域に棲む個体群の間で殺虫剤フェンバレレートに対する耐性に違いがあることを発見し、その変異をもたらしたフェンバレレートの環境中濃度がどれくらいであったかを推定しました(主要論文[3, 4])。このような生態リスクの枠組みは、遡及的生態リスク解析法と呼ばれています。

化学汚染の複合影響は、環境問題でも古くから議論されてきた歴史を持つばかりでなく、薬理学や環境毒性学、生態毒性学においても重要なテーマとして長く研究されてきました。近年、国際的にも化学物質の複合影響をどう管理すべきかを巡って、評価手法の研究が進みました。その結果、化学物質間の相互作用を考慮しない濃度加算というモデルが最も一般的な方法と推奨されています。私は、この濃度加算のモデルを発展させ、化学物質間の相互作用がある場合も使える「一般濃度加算モデル」を考案しました(主要論文[1])。

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(2)生物群集における種の形質に基づく生態影響評価

地球温暖化や生物資源の乱獲などの人為的な要因によって生態系が劣化し、ひいては生態系が人類に提供してきた生態系サービスが低下することが危惧されています。生態系は多くの種から構成されていますが、相互関係を持ちながら共存する生物種の集まりのことを生物群集と言います。環境の変化による生態系の応答は、生物群集における種のメンバーが入れ替わったり、個体数の大小が相対的に変わったりすることによって引き起こされます。たとえば、環境汚染が進行すれば、汚濁に強い耐性の高い種が卓越するようになり、もしそのような種が生態系の働きにとって好ましい性質を備えていなければ、生態系が劣化することになります。

このような生態系を構成する種の特性(生態的形質)に着目して生物群集の変化を解析したり予測したりする方法を形質ベースアプローチと言います。私は、形質ベースアプローチの基礎となる過程、すなわち環境変化によって種の構成が変化し、その結果生物群集内の形質も変化することで群集の特性が応答する過程を数理モデルで再現し、霞ヶ浦やその他の湖で観測されたプランクトン群集のデータに適用しました(主要論文[5, 7])。構成種が資源を巡って競争している資源競争群集を想定したモデルでは、群集が環境変化に応答する速さは、種数にはほとんど関係なく、群集内の形質の変異幅(レンジ)の自乗に比例するという知見が得られました(主要論文[7])。このことは、生態系の環境への応答性を維持し安定性や回復性を保持するためには、種多様性だけではなく種の形質が多様であることが必要であることを示しています。

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(3)遺伝的要因による個体群の絶滅過程

近交弱勢による個体群の絶滅

血縁関係にある者同士の婚姻から遺伝的に欠陥を持つ子が生まれやすいことは、経験的に良く知られています。この現象を遺伝学では近交弱勢と言いますが、人に限らずあらゆる生物で見られます。近交弱勢が生じる主な原因は、ホモ接合体つまり両親に由来する遺伝子が同じであるとき有害な効果を発現する劣性有害遺伝子が血縁個体どうしの交配からは多く産まれることによると考えられています。希少な生物を保護することを目的とする保全生物学では、近交弱勢の効果を常に念頭に置いて保全活動を計画しなくてはなりません。個体数が非常に少なくなると、生き残っている個体が血縁者ばかりとなり、近交弱勢がいやがおうにも生じてしまい、個体群や種の絶滅を引き起こしてしまうからです。とくに、個体数が減少していく絶滅の過程を考えると、近交弱勢による繁殖能力の低下と個体数の減少が負のスパイラルをもって急に進行する危険性が考えられ、「絶滅の渦巻き」と呼ばれています。

この研究では、そのような絶滅の渦巻きが個体数の減少と遺伝的要因との相互作用で生じうるかどうかを、個体群モデルと集団遺伝学モデルの統合モデルによって研究しました(主要論文[13, 14])。その結果、遺伝子の数や有害遺伝子が生じる突然変異率などを現実的な値に設定したときにも、近交弱勢による絶滅の渦巻きが理論上は生じ得ますが、そのためには2つの条件が必要なことがわかりました。その1つは、近交弱勢によって絶滅の渦巻きが自発的に生じるということはなく、何らかの外的な要因(乱獲や生息地の減少などの遺伝的要因とは別の要因)によって個体数が一定の速さで減少する必要があります。いったん個体数の減少がきっかけとなって近交弱勢による絶滅の渦巻きが動き始めると、外的要因の作用によって個体数が減少するかどうかに関わらず個体群は急に絶滅してしまいます。もう1つは、外的要因によって個体数が減少し始める前に、十分な個体数が長い期間(最低数百世代)維持されている必要があります。そもそも個体数の多かった種の方が近交弱勢による絶滅の渦巻きには弱いというのは意外に思われるかもしれません。しかし、常に個体数の少ない種や、過去に個体数が何度か激減した履歴のある種は、その過程で劣性有害遺伝子が集団から除かれてほとんど残っていない可能性が高いのです。つまり、普段は個体数の多い優勢な普通種が何らかの原因で短期間に激減すると、それが引き金になって絶滅の渦巻きが始動するリスクが高いことを示唆しています。実際、リョコウバトや北大西洋のタラなど、かつては膨大な個体数を保有していた種が乱獲によって急速に絶滅してしまった例は、そのような場合かもしれません。逆に、ライオンやチーターなどの大型肉食獣は、そもそも個体数が少ないうえ氷河期に個体数を激減させたと考えられており、不幸中の幸いにも劣性有害遺伝子による近交弱勢はあまり働かないと考えられています(ただし、遺伝的多様性の枯渇による免疫能力の低下や適応能力の減退は深刻な問題です)。

浸透交雑による個体群の遺伝的リスク

外来生物の侵入は、生態系にとって様々な悪影響を及ぼすことが知られています。その一つが、浸透交雑による遺伝汚染の問題があります。これは、外来種が在来種と交雑し、在来種の集団に外来種の遺伝子が入り込むことで、在来種の遺伝的な特性が損なわれることを言います。この現象は、遺伝子組み換え生物が野外に進出して野生種と交雑することによっても生じます。

しかし、種とはそもそも他の種とは交配できない生物の集団のことなので、外来種がやってきても大丈夫なはずです。また、間違って交配してしまっても、正常な子供ができないために次の世代には、外来種の遺伝子は在来種の集団から締め出されるはずです(このことを交配後生殖隔離と言います)。しかし、まれに比較的正常な雑種ができることがあり、その個体がまた在来種の個体と交配を繰り返すことによって、外来種の遺伝子は徐々に在来種の集団に入り込んでいくことがあります。

では、どのような生物がこのような浸透交雑を起こしやすいでしょうか。私は、交配後隔離機構の仕組みと考えられているドブジャンスキー・マラーモデル(隔離機構を支配する2つ以上の遺伝子座を仮定し、それらの遺伝子座がどちらもヘテロ接合体の時に有害な効果があるというモデル。このような遺伝子が多くの遺伝子座に蓄積すると、2つの異なる系統の生物間で交配がうまくいかなくなる)に基づいて、コンピュータシミュレーションによってその条件を調べました(主要論文[6, 8])。その結果、遺伝子の数が十分のとき、それらの間の組み換え率が重要で、その値が大きいほど浸透交雑が起きやすいことがわかりました。このことは、浸透交雑の起こりやすさは、隔離遺伝子のゲノム上の配置に依存すること、それらが異なる染色体上に位置している場合は繁殖隔離が崩壊しやすいことを示しています。

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(4)生物の個体変異と進化

生物が環境の変化に対して適応進化していくためには、個体間で遺伝的な変異(ばらつき)が十分に保たれていなければなりません。このことは、現代の進化理論の基礎を築いたチャールズ・ダーウィンの「種の起原」の中でも繰り返し強調されています。しかし、進化生態学者の間では1980年代になるまで、生物の適応的な形質には、即座に進化的な変化が起こせるほど十分な遺伝変異は保有されていないものと思われていました。わたしは、進化量的遺伝学という統計的な解析手法によって、進化生態学で問題となる適応的な性質(生態的形質)に対して遺伝的解析を行い、生物が豊かな遺伝変異を集団内に保有していることを示してきました(主要論文[4, 12, 15, 18, 19])。

生物の適応形質の中でも、生物の生存や繁殖に関わる特性(産仔数や産卵数、繁殖開始齢、生存力など)は生活史形質と言われ、個体の適応度(次世代に残す遺伝子の量)を左右するので常に自然選択に晒される適応上最も重要な形質と考えられています。一方、生活史のパターンは種によって著しい違いがあることが知られています。では、生活史形質は自然選択による進化によってどのように形作られるでしょうか?最も有力な考え方は、形質の間に遺伝的ないし進化的なトレードオフ、つまり適応度の相反があり、生物の進化はその相反条件で制約された可能な組み合わせの中から最善のもの(適応度を最大化する形質の状態)を選択するというものです。たとえば、産卵数と卵の大きさ、産卵数と寿命の間に遺伝的な制約としてトレードオフがあるとすれば、卵の数が多い方が有利な環境に適応した種は、卵は小さく寿命は短く進化すると考えられます。わたしは、この仮説(拮抗的多面発現仮説)を検証するために、モンシロチョウ (Pieris rapae) とアズキゾウムシ (Callosobruchus chinensis) をつかって量的遺伝解析を行い、たしかにそのような遺伝的トレードオフが初期産卵数と後期産卵数や産卵数と寿命の間に存在することを発見しました(主要論文[18, 19])。

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(5)生物の社会進化理論

生物には、同じ種の個体どうしで集団を作って協力しながら生活するものや、個体間で信号のやりとりをするものがいます。このような生物の社会行動の進化には、人間の本性が進化によって獲得された過程とも何らかの共通点があると考えられます。

真社会性のハチやアリの類にみられる利他的な協力行動の進化は、チャールズ・ダーウィンをして悩ませた進化論上の大問題でした。しかし1964年、W. D. ハミルトンが血縁選択理論を提唱して以来、そのような利他行動は血縁者の適応度を上げることによって間接的に自身の遺伝的適応度(包括適応度)を上げる行動として理解されるようになりました。

一方、多くの生物は、配偶相手を獲得するために示す様々な装飾(鳥の体色や囀りなど)を施したり、競争相手を威嚇するための武器となる角や牙などの外見を見せびらかせたり、攻撃する相手に降伏や服従の意図を伝える仕草を示したりもします。そのような信号形質の進化は個体間の相互作用によって生じる性選択や社会選択で説明されてきました。性選択はダーウィンによって1871年に提唱された概念ですが、社会選択は長く認識されず、1983年に社会生物学者のウェスト・エバーハードが、生物の信号を社会選択という概念で統一的に研究すべきだということを指摘するまで、注目されませんでした。わたしは、社会選択を進化遺伝理論によって定式化し、量的遺伝モデルによって生物のコミュニケーション系の進化が社会選択によって駆動される条件について研究しました(主要論文[16, 20])。

人のコミュニケーションは主に言語によって担われており、動物のコミュニケーションとは根本的に違うと思われるかもしれません。確かに、人間の言語は文化として集団に共有された高度な統語法によって規則化されており、トマセロなどの進化言語学者が指摘するように、強い協力的な動機付けがないと個体発生も進化的な獲得もできないと考えられます。進化理論の側から考えると、このことは社会選択によるコミュニケーション系の進化モデルと血縁選択や集団選択による利他性や協力行動の進化モデルを融合させなくてはならないことを意味します。

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