委員長ご挨拶

委員長 田中 嘉成
地球環境学研究科
委員長 田中 嘉成

我々が住んでいる地球は現在、Homo sapiensという1種が引き起こした前例のない危機、すなわち地球環境問題に直面しています。それは、地球温暖化、生物多様性の喪失、生態系の破壊、化学物質やマクロプラスティックによる海洋汚染など多様な問題を含みます。多くの科学者は、これらの要因が積み重なることにより、地球環境が「地球の境界」と呼ばれる重大な転換点を迎える危機に警鐘を鳴らしています。地球環境がこの転換点をいったん超えてしまうと、破壊された環境を元に戻すことがほとんどできなくなると理論上考えられています。この未曽有の危機に対処するためには、環境学と関連のある自然科学、社会科学、人文学の様々な分野を統合することが急務です。なぜなら、どのような環境問題に対処するためにも、人間活動が自然環境に与える影響を理解するためには自然科学の知識が欠かせない一方で、具体的な対策を講ずるためには、科学や技術を生かす社会や経済の仕組みを作り上げなければ、効果のある対策とはならないからです。このことは、国連によるSDGs目標の多様性と相互関連性によっても示されています。

では、どのような解決への道筋が考えられるでしょうか。私は、環境学に関する高度な教育を施すことにより、環境への高い倫理感に支えられた、環境学の幅広い視野と知識を身に着けた新しい人材を輩出することにあると考えます。既存の価値観や慣習、学術上の垣根などに捉われないで、新しいアプローチや価値を創造するバイタリティーと特権が若い人々には与えられているからです。上智大学大学院地球環境学研究科は、そのような目的を成し遂げるために、文理横断的なカリキュラムを持つ研究科として2005年に設立され、これまで、アジア、アフリカ、南北アメリカ、中近東、ヨーロッパ等から受け入れた多くの学生を、多彩な人材として世界の各方面に送り出してきました。設立当初から、地球環境学研究科は、多様な専門家による学際的な教育プログラムを用意してきました。また、もう1つの大きな特徴は、各教科の学習以外に、野外における実地体験を通じた学修を重視している点です。そのために多くの野外環境研修活動が予定されています。

この挨拶文をしたためている現時点(2021年3月8日)でも、新型コロナウィルスの日本と世界における感染状況が収束する兆しは見えていません。私たちは、この疫病の世界的流行による200万人を超える犠牲を通じて、世界中の国々は閉じられた1つのシステムに組み込まれていることを思い知らされました。さらに、この問題の解決には、医学や薬学、ウィルス学など自然科学の知見や手法と、経済学や政策学などの社会学的アプローチの統合が必要であること、そして何より、私たち個々人の高い意識に基づいた行動と、人々の間の協力行動が鍵となることをこの1年足らずで学びました。これらはすべて、より長い時間スケールで徐々に進行する地球環境問題にも通じるものです。しかし、人類はこのコロナ禍に最終的には打ち勝つものと私は信じます。そして、地球環境問題を克服する潜在的な力をHomo sapiens は持っていると信じたいところです。この2つの災禍に負けないで、地球環境問題のチャレンジに挑む意欲的な大学院生を大いに歓迎いたします。

地球環境学研究科委員長
田中 嘉成